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第十二話 壁符

ผู้เขียน: 春埜馨
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-10-06 15:01:40

|墨余穏《モーユーウェン》は静かに目を開ける。

またよく眠っていたようだ。

すっかり熱は引いたようだが、汗ばんで衣全体が濡れている。

日はすっかり沈み、玉庵では何本もある蝋燭の光が揺れていた。

(天流会かぁ。懐かしい夢だったな……)

|墨余穏《モーユーウェン》は手で首元を拭いていると、そこに蝋燭を持った|師玉寧《シーギョクニン》が現れる。

「起きたか?」

「お! |賢寧《シェンニン》兄、帰ってきてたんだね。久しぶりに懐かしい夢を見たよ。天流会で|賢寧《シェンニン》兄に出会ったこととかさ、俺を湖から救ってくれたこととか。覚えてる?」

「そんな昔の話は忘れた」

「はぁ〜? 忘れちまったのかよ。じゃ、俺が何かしたことも忘れちまったのか? あぁ〜、いい夢だったのに残念だなぁ〜。あ、そういえばあの黒い鴉、天流会に居なかったけど結局どうなったの?」

「確か、出禁になった」

|青鳴天《チンミンティェン》のいる鳥鴉盟は、今も変わらず天台山の管轄から外されているらしい。それを憎んでいるのか、今も他門派への嫌がらせを続けており、今や|突厥《とっけつ》と手を組み出して天台山の守護神を壊す始末だ。

「じゃ、早いとこ|青鳴天《チンミンティェン》を殺さないと」

「お前は大人しくしていろ」

|師玉寧《シーギョクニン》は椅子に座り、料理の入った箱を卓へ置きながら続ける。

「|墨逸《モーイー》、今は本当に何もするな。少し奴らの動向を探りたい」

「分かった、分かった。俺は何もしない。んで、これは今日の夕餉?」

「そうだ」と言いながら、|師玉寧《シーギョクニン》は根菜と肉の汁物と葉野菜を蒸したものを箱から取り出した。

明らかに色合いと匂いからして、師玉寧が作ったものではなさそうだ。

|墨余穏《モーユーウェン》は思わず顔が綻ぶ。

その表情を見た|師玉寧《シーギョクニン》は頬杖をつきながら「さっきより嬉しそうだな」と嫌味ったらしく言う。

「え〜っ? さっきとどこが違うっていうのさ〜。さぁさぁ、|賢寧《シェンニン》兄も食べよう。ほら、蓮根も入ってる!」

|墨余穏《モーユーウェン》は|師玉寧《シーギョクニン》の気分を害さないよう、全力で言ってのけた。

その日の晩は、月が綺麗だった。

|墨余穏《モーユーウェン》は冗談で「一緒に寝る?」と|師玉寧《シーギョクニン》を誘ってみたが、首を振られ全力で断られた。

師玉寧は寝台の横にあるカウチで横になり、|墨余穏《モーユーウェン》に背を向ける。

まだ寝息がないことを確認して、墨余穏は師玉寧の背中に向かって、小さな声でずっと聞きたかったことを尋ねた。

「ねぇ、|賢寧《シェンニン》兄。何で俺が死んだ後ずっと閉関していたんだ?」

どうしても気になっていた。

自分の知らないうちに|師玉寧《シーギョクニン》の身に何かあったのではないかと。誰も知らないそれなりの理由を本人の口から聞きたかったのだ。

少しの間が続き、ようやく小さな返事が返ってくる。

「気持ちの整理をしていただけだ。お前には関係ない。もう寝ろ。私も寝る」

突き放すように言われてしまった為、|墨余穏《モーユーウェン》はそれ以上踏み込む事ができなかった。

気持ちの整理とは何だろうか?

想い人でもいたのだろうかと一瞬思ったのだが、その思いは固唾と一緒に喉の奥へと押し込んだ。

ただ、ひたすらこちらに向ける|師玉寧《シーギョクニン》の背中を見つめるしかなく、その背中を目線で宥めた。

(おやすみ、|賢寧《シェンニン》兄……)

いつか、その背中を抱き寄せられるようにと願いながら、|墨余穏《モーユーウェン》も目を瞑った。

翌朝━︎━︎。

|墨余穏《モーユーウェン》は、あのとんでもなく苦い一葉茶の香りで目を覚ました。

何時から起きていたのか、|師玉寧《シーギョクニン》は相変わらず完璧に身支度を済ませている。

寝台から降りた墨余穏は、髪を一つに結いながら師玉寧のいるところへ移動した。

「おはよ〜、|賢寧《シェンニン》兄。ちゃんと眠れた?」

「うん。お前は?」

「ははっ、俺はどこでも寝れる。でも、|賢寧《シェンニン》兄が隣にいてくれたら、きっ……」

「飲め」

|師玉寧《シーギョクニン》は|墨余穏《モーユーウェン》の言葉を遮るように、一葉茶が入った茶杯を差し出した。

墨余穏は苦虫を噛み潰したような顔でそれを受け取り、一気に飲み干す。

(うぅ……やっぱり無理ぃ……)

「少しは口も大人しくしていろ」

|師玉寧《シーギョクニン》にそう言われ、|墨余穏《モーユーウェン》は卓に顔を伏せていると、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。

「門主、おはようございます。|一恩《イーエン》です」

「入れ」

|師玉寧《シーギョクニン》がそう言うと、|一恩《イーエン》が恐る恐る入ってくる。

|墨余穏《モーユーウェン》の存在に気づいた|一恩《イーエン》は、墨余穏にも丁寧に拱手をした。

そして柔らかい口調で話し出す。

「お寛ぎのところ恐れ入ります。|徐李方《シュ リーファン》と名乗る男性の客人が門の前に来られています。以前、門主に助けていただいたとかで、至急、門主にお会いしたいと。どうなさいますか?」

「分かった。その|徐《シュ》殿を客間へお連れしろ」

|一恩《イーエン》は「承知いたしました」と言って、俊敏な動きで部屋を出ていった。

|墨余穏《モーユーウェン》は|師玉寧《シーギョクニン》に「知り合い?」と尋ねる。

師玉寧は掛けてあった衣を羽織りながら頷いた。

「昔、町で世話になった爺さんだ。私は少し出ていく。大人しくしていろ」

|墨余穏《モーユーウェン》は「はいはい」と言いながら手を振り、師玉寧を見送った。

一人になった|墨余穏《モーユーウェン》は、|師玉寧《シーギョクニン》に想いを馳せた。

出会った時はまだ身近に感じられた師玉寧も、いつの間にか門主になり、天台山の統治を担う一人の重役となった。

どこの門派にも所属していない自分のような身分の低い散士が、こんな敷居の高い場所に居てはいけないのだが、腐れ縁とは不思議なものである。そういうのを全て取っ払ってしまうのだから。茶を淹れてもらうことも、門主の寝台を借りることも、本来ならば絶対有り得ないことだというのに。

|墨余穏《モーユーウェン》は、ほんの少しの優越感と疎外感が入り混じった不思議な気持ちになる。

そんなことを一炷香ほど考えていると、|師玉寧《シーギョクニン》が戻ってきた。

「|墨逸《モーイー》、私は今から|徐《シュ》殿の家に行く。お前も一緒に来い」

「え? 俺も? 行っていいの?」

「いいから早く準備しろ」

「うっす!」と言いながら、|墨余穏《モーユーウェン》は椅子から勢いよく飛び降り、掛けてあった黒色の衣を羽織った。

先に行こうとする|師玉寧《シーギョクニン》を追いかけ、長い石段を降っていく。

寒仙雪門の門を出た辺りで、墨余穏は師玉寧に真相を尋ねた。

「んで? 何が起きてるんだ?」

「|徐《シュ》殿の話によると、流医から貰ったという延命息災の呪符を家の壁に貼ってから、妙な事が身の回りで起きるようになったらしい。夜は苦しくて眠れず、周りでは死人も出ているそうだ」

「はぁ……。よく出回っている変な呪符か? 変な呪符なんてあの|鳥鴉盟《ウーヤーモン》からしか出ないだろ」

「それを一緒に確かめたい。お前は私より呪符の種類に詳しい」

確かに|墨余穏《モーユーウェン》はどこの門派にも所属していない為、様々な呪符を扱うことができる。

 この天台山の掟には、どこかの門派に所属している者は、そこから派生した呪符しか扱えないという第三の掟がある。それに違反すると厳しい罰則を受けることになるのだが、墨余穏はそれに該当しない。

しばらく歩いていると、|徐李方《シュ リーファン》の姿が見えた。家の前で二人が来るのを先に待っていたのだろう。

こちらに向かって深くお辞儀をしている。

「師門主と御連れ様。御足労をおかけします。こちらです」

|徐李方《シュ リーファン》の頬は痩せこけ、目の下には酷い隈が広がっていた。酷く疲れた様子で、相当眠れていないのが見て取れる。

二人は案内された家の中に入り、辺りを見渡す。

妖魔がいると普通は空気が澱んでいたりするのだが、そのような気配は一切感じず、特に何の変哲もない普通の家屋だった。

「そこの壁に貼ってある呪符がどうも奇妙でね……」

|徐李方《シュ リーファン》が怯えながらそう言うと、|墨余穏《モーユーウェン》は触ってもいいかと確認して、その呪符を手に取った。

すると、墨余穏は目を見開き驚愕する!

この奇妙な呪符は、かつて自分が書いた呪符ではないか!

「これは……」

|師玉寧《シーギョクニン》も呪符を見るや否や、同じく驚愕した。

墨余穏は手のひらにその呪符を乗せ、「夜夜冥冥より|出《いで》よ」と呪文を唱えた。

呪符は青色の光芒を放ち、ビリビリと音を立てて焼け焦げていく。やがて灰になり、ハラハラと床へ落ちていった。

「い、一体。何が起きているのですか……?」

|徐李方《シュ リーファン》は落ち着かない様子で、|墨余穏《モーユーウェン》と|師玉寧《シーギョクニン》を交互に見る。墨余穏は床に落ちた灰をかき集め、外の排水へ捨てた。

「徐殿は誰からこれを貰ったの? 流医と聞いているけど、この辺の流医?」

「いや……、それが近頃見なくなりましてね。そこを出た向かい側で薬を売っていたんですが……。名前は|黎明《レイメイ》と名乗っておりましたよ。色んな場所を旅して仕入れていると言っていました」

「知ってる?」と|師玉寧《シーギョクニン》に尋ねるが、師玉寧は「知らない」と首を横に振る。

抜本的解決には至らないが、ひとまずこれで今日の晩からはよく眠れるだろうと、|墨余穏《モーユーウェン》は一枚の呪符を|徐李方《シュ リーファン》に差し出した。

「悪い邪気を吸収する呪符だ。さっきの呪符は悪い邪気を放出する呪符だった。何かあるといけないから、こっちを持ってて」

差し出された呪符を受け取った|徐李方《シュ リーファン》は少し不安気な表情を浮かべたが、「心配には及びません」と|師玉寧《シーギョクニン》が言うと、徐李方は二人に向かって頭を下げた。

「少し様子を見てみて」

|墨余穏《モーユーウェン》はそう言って、二人は|徐李方《シュ リーファン》の家を後にする。

「|墨逸《モーイー》」

「分かってるって」

二人は呪符の真相を掴む為、三神寳のあった華陰山へ向かうことにした。

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ความคิดเห็น (1)
goodnovel comment avatar
Eve郁
今回もあっという間に読み終わってしまいました〜! 少年時代の甘酸っぱいやり取りと、現在に戻ってからの深まる謎! ますます目が離せなくなってきておりますー!!また次の話を楽しみに待ってます〜!
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